PROFILE
Twitterフォロワー数:39万フォロワー超のセガ公式アカウント「@SEGA_OFFICIAL」を2012年より担当する「中の人」。SNSを活用し、硬軟織り交ぜた情報発信や積極的な顧客コミュニケーションが好評で、フォロワーからは親しみを込めて「セガさん」と呼ばれている。



荒川弘先生が描く大人気の農業エッセイ・コミック「百姓貴族」第6巻の発売を記念して、ゲストご自身との関連に触れつつ「百姓貴族」の感想を語っていただくインタビュー企画!!
第三弾では「百姓貴族」好きがツイートで発覚した、セガTwitter担当者(通称:中の人)である「セガさん」が登場です!




———昨年(2018年)12月にセガさんの公式Twitterで、中の人が北海道復興支援のため北海道庁から招かれたという「#タニタ式どうでしょうin北海道」のツイートで「百姓貴族」を取り上げてくださったのが縁となり、今回のインタビューが実現しました。
元々「百姓貴族」を読まれたのはどういうきっかけだったのでしょうか。


「銀の匙 Silver Spoon」(小学館)を私に薦めてくれたセガ社員から、もうひとつすっごく面白いのがあるよ、と薦められたのが「百姓貴族」でした。セガにはマンガ好き、アニメ好き、ゲーム好きの者が集まっていて、その中でも、この人のオススメなら間違いないという同僚の推薦だったので面白いのは最初から分かっていたんですが、すっかりハマッてしまって。1巻から全部初版本で揃えてしまいました。次の巻はいつだろうと気になってふたりで話す日々……(笑)。「百姓貴族」からはパワーがもらえるし、読むと明日からまた頑張ろうという気持ちになりますね。

———「百姓貴族」の中で特に好きなエピソードは?

いっぱいあります。まず親父殿の不死身なシーン。危機に遭うと牛が亡くなるとか、入院中におばあさまが腹の上に乗っていたとか、ハリウッドばりのカーアクション(?)など、常人では考えられないエピソードもあり、とても魅力的ですよね。


あとは搾りたての牛乳が美味しいという話。2歳児の顔がパアッと変化する反応を見て、私も飲んでみたいなあ…!と喉が鳴りました。立てない牛を実験用ではなくひと息に殺してくださいというシーンでは「銀の匙 Silver Spoon」の八軒が豚を食べるシーンとリンクして考えさせられましたね。それと荒川先生が自画像を「ほぼメスしかいないホルスタインで描いている」にも関わらず、「男性と間違えられる」とお嘆きでしたが、私は自画像の牛さんの種類も、メスとオスどちらが多いのかも初めて知ったので、「わかるかーい」と思わず心のなかで突っ込んでしまいました。このようなわれわれ読者の疑問やつっこみを、担当編集のイシイさんが一般人の目線で代弁してくれて心地よいです。
荒川先生のご兄弟との絆も一体感というか、絶大な信頼を寄せるバディ感があって好きです。基盤としての兄弟の絆にすごく安心できますし、荒川先生の作品に出てくる兄弟像とも繋がっているのかなと想像しています。
特に印象深いのは、じゃが芋の規格外品の話。私自身、一定の品質のものがスーパーで手軽に手に入るのを当たり前のように感じてしまっているんですけれど、そうじゃないよなあって。ストレートな怒りとか悲しみのシーンがないだけに、すごく都会の消費者との意識の乖離を感じましたね。
ゲームも、いろんな人の手が入ってものすごく時間を掛けて規格外品質を取り除いて作りあげて、やっとの思いで世に送り出しています。面白いのはあたりまえで、世に出なかったゲームも数多あるところは、ちょっと似ているかもしれません。



———ゲームのお話が出ましたが、ゲーム業界に入ったきっかけを教えてください。

もともと人を楽しませるのが好きで、インターネット黎明期に「ネットで人が繋がる」ことに興味がありました。当時セガから「ドリームキャスト」という、人と人がネットワークで繋がって遊べるゲームハードが出て、画期的ですごくいいなあと思って。おもちゃやカラオケなどさまざまなエンタテインメントを手掛けていたところにも惹かれました。

———広報でのやりがいなどを教えてください。

企業広報や社内広報のほかに、「Twitterの中の人」をやっています。歳も性別も分からず顔の見えない不特定多数の人と会話するのは、楽しいですし難しいですね。思いがけない人からコメントをもらって信じられないスピードで面白い企画ができあがることもあれば、時に心ない言葉をぶつけられることもあり……クソリプって言うんですけど(笑)、それに対して返信すると、「すみませんでした」と謝られたり、「対応が神」と見た人がファンになってくれたり。電車を乗り過ごしたり忘れ物をしたりと失敗しても、おもしろがって笑って励ましてくれたり、「いつも応援しています」「身体に気をつけて」と書いてあるカードをいただいたりもするので、フォロワーには日々助けられています。

先日「セガファン」ではなく「セガ公式アカウントファン」の方を集めて、ファンミーティングを行いました。いわゆるオフ会ですね(2019年8月6日に行われたセガ公式アカウントオフ会の様子⇒https://sega.jp/special/report/report_10.html)。セガ全体では「セガフェス」というファンイベントがあり、10万人以上が来場されますが、「セガ公式アカウントオフ会」は限定32人で会場はセガの社内。「お願い手伝って!」「この間あれやってあげたよね」と口説いたり脅し(!?)たりしながら有志の社員を集めて、とにかく手作りで、みんなで装飾や準備をしました。私もウェルカムメッセージを来ていただいた方全員に向けて書いて。イベントでは参加者と一緒にゲームをしたり、座談会をしたり、日本一歌の上手いサラリーマンと呼ばれるセガ社員がミニライブをしておもてなししたりしたんですけど、参加してくれた方が「社員みんなセガが好きだと伝わってきて、そんな会社を応援できて嬉しい」と言ってくれたり、感激で泣いてくれたりして。これまでネット上で会話していた人とリアルに触れ合えたのが、すごく嬉しかったですね。

———そのイベントを企画した理由は何でしょう。

ファンとの絆をより強い絆にしたいと考えたのが1つです。やっぱりTwitterで仲良くなったら会いたいじゃないですか。ずっとやり取りしていて、顔は知らないけれど顔見知りみたいな気持ちになってきて、ああこの人は学生さんでいま試験中だなとか、この人は「サクラ大戦」、あの人は「龍が如く」が好きなんだ、というのも知って、もっと知りたいと思いましたし、もっと知ってもらいたい。セガ公式アカウントは、これからよいことばかりでなく、苦境に置かれることもあると思うんです。ネット上での交流やリアルでの感動体験が1つでも多ければ、そんなときでもエールを送ってくれるかもしれない。もう1つは、日頃応援してくれているので、こちらからも「ありがとう」をリアルで伝えたいなあ、という気持ちからですね。

———まさにこのインタビューは「どうして百姓貴族を好きになってくれたんだろう」と思い、実現しました。
ところで、公式Twitterで中の人が個人的な「好き」を発信するのは社内的に問題はないのでしょうか。


企業の公式アカウントですから、基本的には自社の情報を伝えます。セガ公式アカウントの場合は、8割宣伝で2割雑談でしょうか。自社と他社の知的財産権には特に気をつけていて、リスペクトと、適切な距離感を保つよういつも意識しています。一方で、情報を淡々と伝えるだけならば「bot(機械による自動発言システム)」でいいですよね。お客さまとしてはどんな人がツイートしているのかを知って安心したいという気持ちがあるので、自分を出しすぎず、「人となり」がほのかに伝わるような情報をあえて入れています。セガ社員である私がTwitterを毎日発信する意味は2つあって、1つは情報を即時正確に伝えること、もう1つは、ふとした社内の様子や社風、社員との会話やお客さまとの交流など、血が通った投稿。この2つに価値があると考えています。私は朝の挨拶で自分らしさを出すことが多いですね。「百姓貴族」のことを呟いたのは、北海道庁から復興支援を目的にお声がけいただき、タニタ・シャープ・キングジム・セガの「中の人」で北海道をツイートしながら旅した「タニタ式どうでしょう」企画でのことでした。(http://info.tanita-thl.co.jp/event/tanido/index.html)。行きあたりばったりで「水曜どうでしょう」的な展開のため、行き先も知らされないまま旭川にいたのですが、ナビゲーターから次は十勝だよとバスに乗せられた時、「百姓貴族」と「銀の匙 Silver Spoon」の舞台である場所についに行けると思ったらめちゃめちゃ嬉しくなって。ちょうど画像フォルダにその2冊を並べた画像があったので思わず呟いちゃいました(笑)。大好きなので!



———タイムリーな画像と素敵なコメントに、百姓貴族公式Twitterでも嬉しくてすぐにリツイートさせていただきました。

「百姓貴族が好き」とツイートをして本当に良かったです(笑)。もう7年くらい公式Twitterを担当していますが、リプライをすると「公式から返信キタ!!!」とすごく驚かれたり感激されたりすることがあり、私は「びっくりするものなんだな…」と思っていましたが、百姓貴族公式Twitterからリプライがきたときは「わ———!公式から!コメントが来た!!」と興奮してしまいました(笑)。
普段SNSで製品の感想を見ていると、好意的に捉えている人が多いのにも拘わらず、どうしても開発者の人格を否定するようなコメントや誹謗中傷が目に付きやすいと思うことがあります。「このゲームはすごく良い時間をもたらした」「大好きだ」「良いものをありがとう」という声がなかなか開発者に届かないことには、以前からもどかしさを感じていました。そこで、定期的に「ここに送れば開発者が直接メッセージを見ますよ」「手紙の場合はここに送ってね」と発信するようにしたら、感想や御礼、応援を伝えるメッセージや手紙が増えました。批判や要望などももちろん参考にしていますが、作り手にとって感想や応援をもらえることはユーザーが思っている以上に嬉しいし、作品への原動力になることじゃないですか。漫画もきっとそうですよね。「好き」と「ありがとう」はどんどん直接伝えたほうがいいし、SNSでも勇気を出して発言したらいいのになと思います。



———うかがっていると編集者の仕事とかなり近いところにありますね。優れた作品をどうやって世に広めて行くのかという。

そうなんですね。私自身は作品を産み出してはいないのですが、ゲームを作った人と受け取った人を繋いだり、作品が好きなユーザーとユーザーを繋いでコミュニティにしたり、最終的にはTwitterでもリアルでも会社とお客さまとを繋ぐ一助の役割を担っていて。どんどん楽しみながらやっていきたいな、と思っています。

———ゲーム業界やTwitterで大変だったことや面白かったことなどを教えてください。

ゲーム業界はたくさんの人数で、ものすごい時間とコストをかけてひとつの物を作ります。壮大な「ドミノ倒し」を一年かけて作っている図を想像してみてください。全体を設計している人と、エリアを担当している人がいて。あっちがうっかり倒しててんやわんやしているかと思えば、逆にこっちは倒れるはずなのに倒れない、と予期せぬトラブルがあることも。納期や予算は限られていますが、クオリティにこだわるからこそ、細部に神が宿る。みんなで協力して物を作り出すというのが、ゲーム業界の大変で面白いところです。
 Twitterでは、スピード勝負で予測がつかない企画が突如沸き起こるのが醍醐味。見ている側もリアルタイムで楽しめ、会社の利益になり、コラボ先の利益にもならないといけないので、実行力や社内調整力など様々な能力が必要ですが、それもまた面白いですね。そういえば先日Twitter企画で「ドミノ倒し」にチャレンジしました(笑)。初めてだったのでなかなかうまくいきませんでしたが好評でした!

———弊社も以前に「百姓貴族」キャラのぬいぐるみのプライズ(ゲームの景品)を製作して頂きました。とても可愛く作って頂きまして……。


あれは2014年ですね。「さすがセガ!」と思いました。よくTwitterでも言われるんですよ(笑)。

———「百姓貴族」をゲーム化するとしたらどんな商品が考えられますか。

6巻で「VR牛の直腸検査」というのが出て来ましたが、VRは未体験のことをリアルに体験できて面白いんですよね。私の勝手なアイデアとしては、親父殿が相当強そうなので、格闘ゲームはいかがでしょうか?「バーチャファーマー」とか…。「ウルフ」ではなく「カウ(COW)」というキャラがいてもいいし、4巻に出て来たTおじさんは酔拳の使い手でしたからぴったり!


アクションアドベンチャーなら「農が如く」はいかがでしょう。農業でミニイベントが発生し、探検し、クマが出たら闘う。弊社の「龍が如く 維新!」というゲームでは、野菜を育てて収穫するミニゲームがあるんですよ。



———あの武闘派ゲーム「龍が如く」でそんなことが!

「龍が如く 維新!」は時代劇で、幕末の設定になっています。
武士の格好をした主人公が大根を育てて雄々しく立つシーンもあるんですよ。


「龍が如く5 夢、叶えし者」は北海道が舞台のひとつで、ヒグマと闘うシーンがありまして。


クマは恐ろしいですよね。


———荒川先生はツキノワグマだったら勝てそうな気がすると作中で仰っていまして……。


荒川先生、強い(笑)。やはりアクションアドベンチャー、いいと思います!


———これまでに農業体験はありますか。


本格的には無いです。ベランダでの家庭菜園にチャレンジしたのですが美味しくなくて。何がいけなかったのか結局わからずじまいでした。


———では食のこだわりはありますか。


食事中にはTwitterやスマホを見ないということをマイルールにしています。食欲をちゃんと感じたいし、食事に集中したいですね。Twitterでも「なぜセガさんの食レポの写真はおいしそうなのか」と聞かれるのですが、それはたぶん食いしん坊だからです(笑)。


———調理の際に使用する食材にもこだわりがありそうですね。


そこまでではないですが、ほとんど外食をしたり飲みに行ったりすることがないので、そのぶん自炊では野菜や肉はなるべく国産で、調味料は質のよいものを選んでいます。北海道の十勝に行った時、道の駅で「食べえ」って言われたセセリ(鶏の首の周りの肉)の唐揚げが、ほんとうに美味しくて! 蒸しただけの地の野菜に十勝産のチーズをとろ~りのラクレットの味も忘れられません。


———「百姓貴族」で一番共感するところは。

生と死の両方が日常の延長に描かれているところでしょうか。理不尽とも言える厳しい状況に、諦めるでも腐るでもなく、当たり前のように対峙するところ。いつも面倒な事から逃げがちな自分の中にも少しだけ残っている強くありたい気持ちが共鳴し、心震えます。あと、地にしっかり足がついているところですね。「母なる大地」という言葉がありますが、荒川先生がその母なる大地そのもので、厳しさと暖かさを感じます。根性論の押し付けではなく、こんこんと湧き上がるパワー、生命力を感じるので、読者はすごく勇気づけられると思いますし、みんなに薦めたい。「百姓貴族」を読むと、他の荒川先生の作品で描かれる、物語における生と死や等価交換のテーマ、主人公が不条理や理不尽に対峙する強さが、イマジネーションではなくリアルな体験に基づいているのだ、とわかります。死に対しても、日常として日々接している死とその意味、死を通じて生に対しても深く考えさせられ、「漫画家でなければ獣医を目指そうとした」という荒川先生の言葉にも通じているように思います。

———「百姓貴族」ファンにメッセージをお願いします。

6巻は、ところどころ「痛い」です。作業中に怪我をするシーンや間一髪のシーンがあり、はらはらしたり想像して顔をしかめたり。また全身全霊で生きている牛と「生活をする」象徴的なシーンがあり、心に残りました。怠けるという言葉とは無縁な勢いと魅力はそのままで、先生の人柄や清々しいまでにタフネスなところ、大地をしっかり両足で踏みしめて仁王立ちされている図が目に浮かび、こちらまで背筋が伸びる思いがする6巻です。「百姓貴族」をまだ読んだことがないという方、なにかに迷っているときはまずその悩みと正面から向き合おうと思わせる本です。荒川先生の作品はどれも素晴らしくたくさんの人を救っていますが、荒川先生の普段の素顔やご家族とのシーンからお人柄が垣間見えるのは「百姓貴族」だけ! この機会にぜひ1巻を手にとってみてください。

読まれた方は、どんどん感想を荒川先生に伝えたり、周りの人に感想を述べたりしたほうがいいと思います。もしゲームと同じなら、先生も編集者のイシイさんも出版社も、みなさん絶対にちゃんと目を通しているはずですから。荒川先生のすべての作品に言えることですが、「いつも素晴らしい作品と触れる機会をいただき、ありがとうございます…!」という気持ちです。ずっと応援しています。


———ゲーム業界もマンガ業界も、本当に皆さんの応援が原動力ですね。どうもありがとうございました。


聞き手・撮影/ウィングス編集部

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