ディアプラスBL小説大賞第21回批評

第21回ディアプラスBL小説大賞にご応募いただきありがとうございます。
2024年のハル号で小説ディアプラスが休刊となったこともあり、応募総数こそ多くありませんでしたが、熱のある作品をお寄せくださった皆さんには感謝の言葉しかありません。

今回は一作、期待賞デビューが出ました! 栄円ろくさん「無能な研究者と辺境の黒狼」は、2024年秋に配信予定のアンソロジーに掲載させていただきます。アンソロジーのテーマが「ファンタジー&エロス」であるため作品には少々改稿を加えていただく予定ですが、今回の評と併せて参考にしてみてください。

「ディアプラス・チャレンジスクール〈小説部門〉」、そして「ディアプラスBL小説大賞」と、編集部では二十年以上にわたって作品を募集してきました。今までの形式での募集は最後になります。二十年余の間、世の中は変化し、BL小説界にもさまざまな変化が訪れました。プロの小説家を目指す皆さんも、どうか変化していってください。編集部も常に読者さんの方を向いて良い変化を続けたいと思っております。

最後なので、個別評では書けないことなどまとめてみます。
第3次選考通過以上、受賞に至っていない方。最後の一歩でどこかしらの詰めが甘い、という印象を受けます。世界観、キャラ設定、描写その他。かゆいところに手が届いていなかったり、あるいは読者受けをあまり意識できていないように感じています。でもこの段階にいる方が、ボタンをかけ間違わずに書き上げられた作品は、きっと誰かの目に留まるはずです。諦めずに書き続けてください。あるいはご自身のために、楽しんで書き続けてください。

第2次選考通過までの方。とにかくまだ書き慣れていない、というように感じました。自分以外の他者に読ませるための文章、SNSやメールなどではなく「小説として読ませるための文章」を書くにはどうしたら良いか、研究してみてほしいです。そのためには客観的視点を手に入れること、それ以上にたくさん書き、他者に読まれる機会を多く作ることが大切。読書量も増やしましょう。好きこそ物の上手なれ、です。頑張らなければならないことは多いですが、やっただけ伸びる可能性も高いです。まずは量をこなしていってください。

小説ディアプラス編集部主催の新人作家さんの募集方法は、現在ネットを利用した投稿賞を立ち上げるべく準備中です。決まりましたら、本サイトとX(旧Twitter)等でお知らせします。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


期待作(トップ賞)……賞金1万円

栄円ろく「無能な研究者と辺境の黒狼」120枚

【あらすじ】魔石研究者のミスカは、結果が出せずに国立研究所を追い出され、魔物被害に悩む辺境伯シルヴォのもとで働くことに。最初は実績のないミスカを軽視していたシルヴォだが、ミスカが獣人である彼の獣性を抑えたことから心を許し、二人は親しくなる。辺境領の魔石研究設備は素晴らしく、結果を出せるようになっていくミスカ。だが何者かの企みで魔物の出現をミスカのせいにされ、さらにシルヴォにも距離を置かれてしまい……?

【評】魔石や辺境領、人間と獣種など、異世界好きのツボをきちんと押さえた設定・世界観でポイントが高い。受・攻ともキャラが立っていてそれぞれ魅力的ではあったが、互いへの好意がなぜ恋愛に発展したかの理由づけが弱く、恋の自覚が唐突に感じられたのが惜しい。枚数の制限もあるとは思うが、敵も小物すぎて拍子抜けしたので、もう少し骨のある相手でもよかったのでは。また、ラストはミスカが論文を完成させてこれまで馬鹿にしてきた人の鼻を明かし、名誉を得てからそれでも辺境を選んだ方が読者も納得できるだろう。ただ全体に栄円さんが楽しんで書いたことが伝わってきてこちらも楽しく読めた。この調子で頑張ってほしい。

期待作 第2席……賞金1万円

糸文かろ「1/1000000のセンチネル」120枚

【あらすじ】優秀なガイドのユエは、センチネルのジョシュにシールドを張ろうとするが失敗。攻略のヒントを探るため彼の家に通い始め、やがて心を通わせるようになる。両親が別れたトラウマから、センチネルとガードの恋愛を信じられないユエだったが、ジョシュに惹かれていることを自覚する。そしてユエは最後のチャレンジでジョシュを無事に助ける。直後、ジョシュから告白されたユエだったが……?

【評】誤用が多い見直し不足な点は気になるものの、筆力が高い読ませる文章。SFかつセンチネルバースという難易度の高い設定をわかりやすく平易に読み手に伝えられている。キャラのバックグラウンドの掘り下げもできていて、二人が心の距離を縮めていく様子を共感して読むことができた。問題は中盤以降。ジョシュに心惹かれているのに、なぜユエはジョシュからの告白を断ったのか? なぜ断ったすぐあとに想いを告げたいと思ったのか? そこまで感情移入できていたユエの恋情にとたんに寄り添えなくなってしまった。起承転結の「転」を作ろうとした焦りが出てしまったようで惜しまれる。

最終選考通過作品

生島志乃「バウムクーヘンエンドから始めよう」120枚

【あらすじ】Ωの水葉は、片想いしていた友人の結婚式の帰りにαの瀬上と出会う。泣いている水葉を優しく慰めてくれた瀬上は、聞けば同じ式に出席しており、さらに相手側の新郎に片想いしていたという。似た境遇に共感しあった二人は意気投合し、友人として度々会うようになる。だがある日、瀬上の家で水葉が突然ヒートを起こしてしまい……!?

【評】水葉、瀬上ともに性格が良く、αの瀬上は自制心も持ち合わせておりキャラへの好感度は高い。ただオメガバース設定が生かしきれておらず普通の現代物として読めてしまい、物足りなさを感じた。恋愛面では出会いから付き合うまでが予定調和でやや平坦な印象。バウムクーヘンエンドというキャッチーな要素も出オチで終わっていて大変もったいない。瀬上の女性的なキャラ設定ももっと話に絡ませられたのでは。キャラ・ストーリーともにさらに深掘りしてインパクトのあるエピソードを生み出す必要あり。

第4次選考通過作品

満屋ゆの「だから毛繕いをさせて下さい」120枚

【評】受攻ともに好感を持てるキャラで、二人が不器用に接近していく様子を楽しめた。獣人の設定も丁寧に説明されていてわかりやすい。ただ獣人と人間が共存している世界で、攻の美容院に人間の客がいないのは不自然では? 獣化した獣人が毛繕いするだけでなく、普通の人間や獣人の通常時にも美容院は必要なはず。そのあたりの説明不足な点は設定ものとして少々気になった。


伊藤あまね。「あわれなトビ色猫が山猫様に愛されるまで」119枚

【評】主人公の受がけなげで可愛らしく、攻が惹かれていくのにも説得力があった。攻も魅力的だし、悪役もキャラが立っている。ファンタジー的おとぎ話色が強く、BLでなくても描けそうな話ではあったが、とても楽しく読むことができた。物語の「起」となる、受を山に追いやった彼の双子の兄のその後について、どこにも触れられていなかったのはストーリー的には消化不良で残念。


熾月あおい「なんで私が左遷されるんだ!」120枚

【評】中華的ファンタジー。なのでタイトルにそれらしい単語を入れてほしかった。逆に作中使用単語や漢字遣いで中華を主張しすぎるのは、ライトな作風にそぐわず読みにくい。恋愛ものとしては王道。受攻のキャラの掘り下げや、エピソードの独自性がもう少し欲しいところ。二人の道中を追うだけで、気持ちが相手に引き寄せられる様が描けておらず、恋愛ものを読んだときめきにも乏しい。


野中にんぎょ「赤じゃない色で編む愛は、」117枚

【評】Dom/Subユニバースものだが、地に足がついた現代ものとして読めた。 Subの受とDomの元カレは「嫌い合った訳ではなく、ボタンの掛け違いからすれ違いが生じ、受にSubdropを起こさせて」別れていたり、包容力が高いNaturalの攻が内心で抱えていた不安を中盤で明かしたり、ある意味恋愛ものとしてはリアル。だが受攻が付き合う冒頭から物語が始まっているためか、恋のときめきを感じることはできなかった。

その他の作品

第21回BL小説大賞選考結果

◎第21回ディアプラスBL小説大賞・第四次選考通過以上の希望者の方に簡単な個別評をお送りします。ご希望の方は2024年7月19日(当日必着)までに84円切手貼付済みの返信用封筒(定型内サイズのもの)を以下の宛先までお送りください。

宛先

一つか二つ、簡単な質問をお書き添えください。簡略にお答えします。

◎改稿して他社へ投稿し直す作品、小説投稿サイトへアップする作品に関しての批評請求はお断りしております。ただし寸評のみをお返しした作品に関してはこの限りではありません。

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