わが愛しのホームズ
ローズ・ピアシー
極 秘 捜 査
以下の指示はこの原稿に付随して発見されたものである。それはもうひとつの性質を同じくする事件記録同様、現時点において出所を明らかにするわけにはいかない経路から入手したものである。
これらはワトソン博士がこの記事を書いた状況と直接かかわっているので、ここに前書きとしてその全文を掲載する。
ローズ・ピアシー
わたしはこの箱におさめられた原稿のうち、その最初の事件が起こった年から(一八八七年)百年が経過するまで開封されることなく、読まれることなく、また出版されることのないことを強く望むものである。
もしこの空白期間があまりにも長過ぎるようならば、後世の読者にお詫びするしかない。なぜなら現在、この新しい世紀の初めにおいて、これらの回想録がふさわしい共感と関心をもって受け入れられるようになるには──わたしは必ずやその日が来るものと信じているのであるが──少なくとも数十年が必要だと思われるからだ。
これらの事件の記録がわたしの代理人であるコナン・ドイル氏の手に渡ることはないし、これからもあり得ないだろう。なぜならこれらの事件はあまりにもわたしの私生活……すなわちわたしの著作上ではまことしやかな説明がなされている、わたしとシャーロック・ホームズ氏との真のかかわりあいと密接に結びついており、わたしや彼が生きているうちは公にできないような性質のものだからである。
しかしながら、いつの日かこれらに関与した人々が物故して久しく譴責を受ける恐れのなくなったとき、これらの記述がわたしたちにとって許されたそれよりも、はるかに幸福な日々の光のもとに明らかにされることを、願わずにはいられない。
ジョン・H・ワトソン医学博士
ロンドン 一九〇七年
Ⅰ
わたしはこれまで、わが友人シャーロック・ホームズ氏とともに関わってきた事件の記録の日付けが正確でないとの非難をしばしば受けてきた。それに対してわたしは、いつも事件の性格上、慎重な扱いを要するからだと苦しい説明をしてきた。
これからわたしが述べようとする事件について、なんとそれはぴったり当てはまることか!
しかしながら洞察力のある読者ならば、ここに記された事件の正確な日付けを推定することは可能であろう。だが、今回の事件が陽の目を見ることになるかどうかわからない現状では、どんなに慎重を期しても足りないということはないのである。これから述べる事件はショルトー事件、すなわちわたしが『四人の署名』という題名で一般に公表した事件の前の一月といえば、たぶん読者にはおわかりいただけると思う。
当時シャーロック・ホームズは何日もベッドのなかで過ごしたまま出てこようとしなかった。事件と事件の谷間によくありがちな倦怠期にどっぷりおちこんでいたのである。今回のそれは特にひどく、古いクレイパイプや、質の悪い刻み煙草を詰めたペルシャスリッパ、コカインの壜と皮下注射器などを持って、ほとんど部屋にこもりきりになっていた。
思うに彼はわたしの心配顔や、自分の体を害していることに対する非難を全面的に避けるつもりだったのだろう。わたしはといえば、携帯用フラスクの中味と、混乱の極みにある居間の惨状を回復するという、なかば気の乗らない試みで心を慰めることしかできなかった。それが待ちに待って与えられた機会であることはたしかだったが。
しかしわたしはちっとも作業に熱中できなかった。ここ数ヵ月、わたしに忍び寄ってきたメランコリーがすっかり心に居座ってしまい、ホームズの人づきあいからの
隠棲でさえ、現在のわたしの不幸な境遇には苦々しい解放とさえ思えたほどだ。わたしはわびしい気持ちで、二人が六年間暮らしてきた居間の品々を眺めわたした。ほとんどがホームズのものばかりで、わたしの占める割合など取るに足らないように思えた。
部屋の四隅にはホームズの本や新聞が寄せ集められて吹きだまりを作っている。散らかったテーブルの上に忘れ去られた化学薬品や試験管は、なんらかの機会さえあれば爆発しそうな今のわたしの感情とひどく似ているように思えてならなかった。暖炉の脇の書棚に並ぶ、
相互参照をつけられ、入念な注意をはらって常に新しいものと取り替えられている索引録や備忘録は、わたしよりもはるかに愛情のこもった扱いを受けていた。返事を出していない私信が、無情にもジャックナイフを突きたてられ、マントルピースに串刺しになっているのを見て憂鬱な共感をおぼえたわたしは、これ以上ベーカー街二二一Bの部屋で時間を無駄にするのをやめ、他に慰めを求めに行くべきだと判断した。わたしは下宿をあとにして、ほとんどの時間をピカデリー周辺で過ごし、ワインの酔いでいっそう惨めな気分を味わいながら朝の早い時刻に戻ってきた。
そのため、わたしはシャーロック・ホームズとアン・ダーシー嬢の第一回めの会見に立ち会うことができなかった。わたしがベーカー街に戻ってきたとき、それはすでに終わっていたのである。わたしはふらふらと自分の部屋に戻ると、ほとんど無造作に着ているものをあたり構わず脱ぎ捨て、ベッドに入ってものの数秒もたたないうちに眠りに落ちた。過度なアルコール分を取り過ぎたために、最初の数時間は眠るというよりも意識を失った状態に近かった。おかげで肩を揺すられて無理やり起こされたとき、わたしはまだ真夜中のような気がしていた。
「ワトソン君、起きたまえ」
わたしはあわてて跳び起きた。冷たい一月の朝の陽光が目に跳びこんできた。鼠色のドレッシングガウンを着たホームズが、朝の一服のパイプをくわえ、不快な臭いを漂わせてベッドの脇に立っている。重たげなまぶたの下からわたしを見おろし、頭を一方に傾けた彼の唇には、面白がっているような微笑みが浮かんでいた。
この事態を飲みこむまでにわたしはしばし時間を必要とした。これまで何日も姿を見かけず、きちんとした時間にいっしょに食事を
摂ることを説得させることさえ難しかった男が、ベッドから出ただけでなく、わたしを朝食に誘っているとは。
「いったい何事かね、ホームズ?」わたしが不平がましくたずねた。「わたしはひどく疲れているんだよ。帰りがひどく遅かったものでね」
するとホームズはにやにや笑いながら両手をこすり合わせた。
「親愛なるワトソン君」彼は唇からパイプを外すと、無邪気さを装ったひやかしまじりの視線でわたしを見下ろした。
「どうやらすっかり
自堕落な習慣に染まってしまったようだね。朝食の誘いを断るなんて君らしくないじゃないか」
わたしはベッドから出て、ドレッシングガウンを引っつかんだ。
「わたしの食習慣を気にしてくれるとは、それこそ君らしくないじゃないか。君が朝食のテーブルにつくのを見るのは五日ぶりだがね。ぜひともその理由を聞かせてもらおうじゃないか」
「それは朝食の席で話そう」ホームズはすでにドアに向かいかけていた。
わたしは慌ただしくスリッパに足を突っこむと、ドレッシングガウンの紐を結びながら、彼のあとをよろよろ追いかけた。突然こめかみに走った痛みに思わず顔をしかめる。
「実は
昨夜依頼人があってね」とホームズは先にたって階段を降りながら言った。「君もクラブなんぞへ出掛けていなければ、さぞかし面白くなりそうな事件の発端に立ちあえたのに」
わたしは昨晩の居所について彼の言葉をただしたいのをぐっとこらえ、居間へ入った。わたしの部屋を片付けようという試みの跡は、すでにどこにも残っていなかった。テーブルに並べられたおなじみのハドソン夫人の心づくしの朝食が、まわりの惨状に対する無言の非難をあらわしているように思えた。
ホームズはものうげに安楽椅子に沈みこんで、わたしがテーブルの上で二人分のコーヒーを入れるのをじっと眺めていた。わたしは彼の顔がここ数日の不健康な生活を物語るかのように、げっそりやつれているのに気がついた。わたしはコーヒーカップを彼の決まった場所に置いて自分の椅子に腰を降ろしたが、必要以上に乱暴に引いたために、テーブルの上の陶器類がカタカタと音をたてた。わたしはせめて事件に取りかかる前に、彼にきちんと朝食を摂らせようと決意した。
「それで?」とわたしはベーコンエッグの皿にかがみこみながら、そっけない口調でたずねた。「いったいどんな依頼人だというんだね? その男は」
ホームズは微笑を浮かべて安楽椅子から立ち上がると、テーブルに近づいてきた。
「
彼女だよ、ワトソン君、
彼ではなくね」と彼は穏やかな口調でただした。「昨晩ここを訪れた依頼人は若いご婦人だったのさ。もしその場に君がいあわせたらさぞかし強烈な印象を受けただろうよ」
「ああ、そうかもしれないがね」わたしはぶっきらぼうな口調で答えて、ベーコンエッグに
舌鼓を打った。今のわたしはとても彼のからかいに乗る気分ではなかった。
「これまで見たこともないほど非凡な女性だ」とホームズはいった。「ミス・ダーシーには、ある意味では見る者に畏怖の念さえ抱かせるようなところがある。彼女の物腰にはなんというか──大胆な率直さのようなものが感じられるんだ。いやはや、君だったらたちどころに参ってしまうだろうと思ってね。別にぼくまで君のご婦人の好みに染まったとは思わないでほしいが」
彼は何も塗っていないトーストのひと切れにかじりついた。わたしは何もいわずにバターとマーマレードを乗せた皿を彼に押しやった。
「そのご婦人はぼくのもとに三通の興味ある文書を残していったので、ぜひ君にも見てほしいんだ」彼はそういいながらかじりかけのトーストを手にしたまま、マントルピースへ向かった。そして棚から数葉の文書を取り出すと、それをわたしの皿の横に置き、そのまま立ちつくし、うわのそらでトーストを噛んでいた。仕方なくわたしはナイフを置くと一番上の黄色い封筒を取り上げた。そしてなかから電報を取り出すとベーコンを口いっぱい頬ばったまま目を通した。
それはカンバーウェル・グローブのマリア・カークパトリックなる女性にあてたもので、ケンジントンの消印が押され、日付は一月十六日となっていた。電文はきわめて簡潔で要点をついていた。「スグカエレ タスケイル ハハ(COME AT ONCE NEED HELP MOTHER)」文面には句点もなければ署名もなかった。
「たしかさっき、その若いご婦人の名前はミス・ダーシーだと聞いたような気がするんだがね」わたしは口がきける程度までに食物を飲みこんでから訊ねた。
「その通りだ。実はこの電報はミス・ダーシーの同居人に届いたものでね。ミス・ダーシーの話では、この電報を見るなりカークパトリック嬢はそそくさと家を出て、以来だれも姿を見ていないそうだ」
「彼女の母親が電報を打つほど助けを求めていたのなら、別にちっとも不思議だとは思わないがね。ダーシー嬢は彼女の母親の家には問い合わせなかったのかね?」
ホームズはじれったげに舌打ちをしてみせた。
「だがね、事態はそれほど単純なことではないのだよ、ワトソン君。ミス・ダーシーは彼女の居場所はおろか、この電報が来るまでその存在すら知らなかったのだから。カークパトリック嬢は、むしろ母親がとうの昔に亡くなったような印象を彼女に与えていたのだそうだ」
わたしは電報を下に置くとコーヒーをひと口すすった。
「それではなぜ警察に行かないのかね? なぜわざわざ君のところへ来たりしたんだい? わたしにいわせれば、これはごくありふれた失踪事件にしか思えないがね、ホームズ」
「何ごとも辛抱が肝心だよ、ワトソン君。それではこの封筒の中身を読んでみてくれたまえ」
彼はわたしの肩ごしに身をかがめて、皿の横の封筒をひっくり返しながら言った。
「とにかくこれを読んでじっくり観察してみてくれないか。君の推理を聞かせてほしいんだ」
電報と同じようにそれはマリア・カークパトリックあてになっており、筆跡は力強く華麗だった。封筒自体はしわくちゃで、まるで誰かがひねったものをもう一度平らに伸ばそうとしたかのようだった。わたしがそれを指摘すると、ホームズはわが意を得たりといいたげな同意のつぶやきを漏らした。
「これはいったい誰からなんだ?」わたしはいらいらした口調でたずねた。「これもカークパトリック嬢の母親からだというのかね?」
テーブルににじり寄って、何もつけていないトーストをさらに一枚つまんだホームズは
咀嚼に忙しくてすぐには口をきこうとしなかった。その合間を利用して再度手紙に目を落としたわたしは、突然、それが見覚えのあるものだということに気がついた。わたしは驚いたような叫びをあげると、さらによく封筒の筆跡を見るために目を近づけた。
「輪になった『
l』の字と、ギリシャ風の『
e』か……」とわたしはつぶやいた。
ホームズはテーブルから一歩あとずさり、首を傾けて驚いたような目でわたしを見た。
「これは驚いた。君の観察力もまんざら捨てたものじゃないらしい。見てのとおりこれはご婦人の筆跡ではない。だからカークパトリック嬢の母親が書いたものだということはあり得ない。しかしこの封筒におさめられた手紙の内容と、さっき君に読んでもらった電報とのあいだに密接な関係があることは明らかなんだ。
この封筒は、同居人の失踪直後に、われらが依頼人ミス・ダーシーによって発見されたものだ。彼女の言葉によれば、これまでにも何通か同様の手紙がカークパトリック嬢のもとに届いていたそうで、カークパトリック嬢は手紙が届くたびに、なぜかそれをひた隠しにしていたそうだ。彼女は決してその手紙の内容や差出人の名前を明かさず、これまたミス・ダーシーの言葉によれば、いつも一読したあとで封筒と手紙は破棄していたそうだ。この封筒だけは、一度丸められてからどこかの隅に放り投げられていたらしい」
わたしはふたたび
流暢な力強い筆跡に目を落とし、どこでそれを見たのか思い出そうと眉を寄せて考えこんだ。同じ筆跡で書かれた住所と名前をどこかで見ている。この封筒の筆跡にはたしかに見覚えがあった。
「依頼人によれば」そういいながらホームズは三枚めのトーストをいったん取り上げて、また下ろした。
「カークパトリック嬢は、この手紙を電報に先だつ三日前に受け取ったのだそうだ。だがいつもと違い、今回は破棄されることはなかった。電報を受け取った彼女は、すぐさま自室へ駆け上がり、封筒から手紙を出して何度も電報と照合してから、ポケットに手紙だけ突っこみ、丸めた封筒と電報をテーブルの上に残したまま、そそくさと家を出ていったそうだ。これはたまたま同じ部屋にいたメイドから依頼人が聞き出したものだ。どうやらカークパトリック嬢はひどく取り乱していたために、彼女の存在にさえ気がつかなかったらしい。メイドの言葉を疑う理由はどこにもない。
ゆえに親愛なるワトソン君、この手紙と電報の出所は同じものだと結論することができる。カークパトリック嬢がいつものように手紙を即刻処分しなかったのは、何かあとで照会が必要になるような重要なことが書かれていたことを意味している。ミス・ダーシーの言葉によれば、この手紙を受け取ってからというもの、彼女はひどくうわのそらだったそうだからね」
わたしは不吉な封筒を皿の向こう側に押しやった。
「たしか君はさっき、この筆跡は男性のものだから、カークパトリック嬢の母親から来たものではないといわなかったかい?」わたしはさりげない口調を装って訊ねた。筆跡の出所がはっきりつきとめられないうちは、見覚えがあることを伏せておいたほうがいいだろうと思ったからだ。
ホームズはやれやれといいたげに嘆息してみせた。
「たしかにいったとも。だからといってカークパトリック嬢の母親のもとから来なかったということにはならないだろう」と彼はいった。
「説明ならば幾とおりでも考えられるが、一番ありえるのは、彼女が誰かに手紙を代筆してもらったという可能性だ。だがあまり先を急ぎすぎるのは禁物だよ。十分な事実が集まらないうちに結論を出そうとするのは大きな過ちのもとだからね」
そういって彼は椅子に戻り、すでに冷たくなったコーヒーに口をつけた。そして無頓着な様子でコーヒーをすすりながら、わたしが今一度文書を検分するのをじっと見守っていた。それは別の封筒で、あて先はミス・ダーシーになっており、今度は中身が入っていた。どうやら直接配達されたものらしい。なかには便箋が一枚入っており、力強い丸みを帯びた筆跡で走り書きされていた。日付けは一月十七日になっている。
わたしの愛しいAへ
どうかあまり心配しないで下さいね。わたしは安全で元気でいますし、できるだけ早く家に戻るつもりですから。
実はさしせまった緊急事態のためにわたしは呼び戻されたのです。戻ってからその理由は必ずあなたに説明します。
何よりもお願いしたいのは、わたしの行方を探そうとしないでいただきたいことなのです。特に警察には絶対に知らせないで下さいね。これはとても慎重な扱いを要する問題なのです。いずれあなたにもわかると思うけれど。
とにかくわたしが今無事で安全でいることを信じて下さい。これが終わったら一刻も早くあなたのもとへ戻るつもりだということも。
愛をこめて M・K
「君も気づいたことと思うが」とホームズはいった。
「この手紙はかなり慌ただしく、しかも動揺した状態で書かれたものだ。このご婦人は何回も同じことを繰り返しているし、急いだせいでインクも滲んでいる。消印を避けるためにわざわざ直接配達されてきてはいるが、これもまた電報の消印と同じケンジントンから発信されたものとみていいだろう」
「なるほどね」とわたしは手紙を封筒に戻しながらいった。「それでミス・ダーシーは、同居人にいわれたとおりに帰りをおとなしく待っていられないというわけなんだね?」
「連絡がなくなってからもう五日間にもなる。警察へ行くよりは──カークパトリック嬢が固く禁じているからね──ということで、ぼくのところにやってきたわけさ。警察に知られずこっそり調査をして、彼女が無事でいるかどうか確かめてほしいとね。ミス・ダーシーは親愛なる女友達が──手紙の文章の調子から二人のご婦人がごく親しい仲だということがわかるだろう──これまでひた隠してきた母親の消息が、何かさしせまった憂慮すべき状態を引き起こしているのではないかと考えたわけだ」
「なるほど、よくわかったよ」わたしはのろのろと答えながら、あいかわらず頭のなかでは筆跡の主について思い巡らしていた。マーマレードを塗ったトーストをひと噛みしたとたん、もはやそれが食べるに耐えられないほど冷たくなっていることに気づいた。わたしはうんざりした面持ちでそれを皿に戻すと、安楽椅子にそり返ってものうげに煙の輪を吐いているホームズに目をやった。
「君はほとんど朝食に手もつけていないじゃないか!」わたしは非難めいた口調でいった。彼がわたしの食欲にも影響を及ぼしているのにいらだちを感じながら。
「なあに心配することはないさ、親愛なる君」と彼は言った。「この事件は朝食十二回分よりも、はるかにぼくの健康にいい影響を及ぼすだろうよ。君も医学に携わる者としてぼくの言葉の正しさを知ることになるさ」
わたしはため息をついてナプキンで指を拭った。わたし自身は気分がいいどころではなかったので、目の前のベーコンエッグを片付けられるかどうかさえ疑わしかった。
「わたしは着替えることにするよ」わたしはせいぜい威厳を取りつくろいながらそういって、ドアに向かいかけた。
「それが賢明だね」ホームズはいった。
「君だって依頼人にドレッシングガウン姿で会いたくはないだろう?」
「何だって」わたしは慌てて振り返った。
「いったい彼女は何時に来ることになっているんだ?」
「今すぐに来てもおかしくはないね」とホームズはマントルピースの上の時計を眺めながらいった。「午前十時にまたここへ来てもらうことになっているのだから」
わたしはいぶかしげに眉をあげた。「それじゃ、何だって君も着替えないんだ?」
ホームズはくすくす笑いながらいった。
「もちろんそのつもりさ。もっともぼくにとっちゃ、しごく簡単なんだけれどね。実をいえばね、ワトソン君。君と違ってぼくのガウンの下はすっかり身仕度が済んでいるんだよ」
わたしは背後でドアを叩きつけるようにして、猛スピードで自室に逃げこんだ。
Ⅱ
わたしは限られた時間で急いで顔を洗い、着替え、髭を剃らなければならなかった。おかげでチョッキのボタンはちぎれ、靴紐は切れ、おまけに頬骨のすぐ下をカミソリで切る始末だった。わたしは鏡にうつったわが姿をうんざり眺めながら、できるかぎりの威厳を取りつくろってみたが、あきらかにそれとわかるピンク色を帯びた白眼や、目の下にできた
隈がその効果をはなはだしく薄めていた。
着替えに悪戦苦闘している最中に、わたしはハドソン夫人が居間に入ってきて朝食の盆を下げる音を聞いていた。そして、今ふたたび、階段を上ってくる彼女の重たげな足音と、そのあとから上ってくるより軽やかな足音を聞いた。ときおり若い女性の話し声も聞こえてくる。やがてドアがノックされる音と、それに続くホームズのものうげな応答が聞こえた。
「アン・ダーシー様がお見えです」と女主人の声がした。
「おや、これはミス・ダーシー」とホームズ。「わざわざまた来ていただいてご苦労さまでした。どうかお掛けください」
わたしはドアがふたたび閉まり、ハドソン夫人が退出するのを確かめてから、階段を降りていった。
ミス・アン・ダーシーは、ホームズがいつも依頼人を座らせる籐の椅子に腰をかけ、その脇に巨大な黒い雨傘をまるで槍のようにたてかけていた。黒い男物仕立てのスーツにあわせた同色の帽子が、色の白い目鼻立ちと美しい明るい色の瞳をいっそうきわだたせている。だがこちらを見たとたん、彼女の目に浮かんだいかにも親しげな表情をみて、わたしは少なからず驚いた。わたし自身は彼女にまったく見覚えがなかったからである。一分の隙もなくフロックコートに身を包んだホームズは、彼女の反対側の安楽椅子に腰を降ろした。
「こちらはワトソン博士です」彼はいった。「得難い貴重な友人であり、これまでにも数限りなくわたしの大きな助けになってきてくれた人物です。彼をこのまま同席させることに、どうかご同意願いたいのですが」
「もちろん異存などあろうはずがありませんわ」若い婦人は答え、わたしに向かってていねいに頭を下げた。またしてもあの親しげな笑みが浮かぶ。わたしはどう対処すればいいかわからなかった。その第一印象とホームズの口から聞いた彼女の置かれた状況からみて、それが決して浮わついた目的によるものとは考えられなかった。
いずれにせよ、わたし自身としてはいかなる誘いにも応じる気はなかった。わたしは厳粛な面持ちでホームズの隣に座り、患者を前にしているときと同じような、いかにも医者らしい冷静さを取りつくろった。見たところ相当な教養の持ち主であるらしいミス・ダーシーは、昨晩の話をさらに細かいところまで確認した。今朝の郵便物には彼女の友人からの知らせはなく、あいかわらずその身の上をとても心配していること、その失踪が引き起こした謎を、何としてもつきとめたいと思っていることなどを彼女は語った。
「マリアはこういった手紙をもう何年も受け取っていました」と彼女はいった。「だいたい三ヵ月に一度くらいの割合になりますわね。最初のうちはわたくしも面白がってからかっていたのですけれど、しだいに彼女がなぜ差出人を教えてくれないのかが気になり始めました。わたくしたちの長い親密な友情のなかでも、その一点だけはどうしても譲ろうとしませんでした。差出人の名前を明かすことをマリアは
頑なに拒否し続けたのです。
やがて時間がたつにつれ、それらの手紙が極秘ではあっても、とりたてて彼女を
脅かすものでないとわかってからは、わたくしもあえて寝た子を起こすようなまねはやめようと思い、その件について問いただすことはいっさいやめてしまいました。ですから、それが実は彼女の母親、しかも彼女が十六歳のときに亡くなったと説明されていた人物から来たものだと知ったとき、わたくしがどんなに驚いたかご想像いただけると思います。今となっては、彼女が嘘をついていたことがはっきりしたわけですが、なぜ母親が生きていることを内緒にしておきたかったのか、わたくしには
皆目見当がつきません」
彼女はいったんここでため息まじりに口をつぐみ、もの思わしげな表情でホームズが元どおりの場所に戻しておいたペルシャスリッパをじっと見つめていた。まるでそこに女友達の奇妙なふるまいの鍵が隠されているとでもいうかのように。
沈黙を破ったのはホームズだった。いまやすっかり事件に関心を奪われ、身を乗り出している。「カークパトリック嬢と知り合われてから、どれくらいになりますか、ミス・ダーシー?」
「そうですわね、かれこれ八年ばかりにもなりますかしら」
「特に親しくなられてからは、どれくらいたつのですか?」
ミス・ダーシーの眉が面白そうにつり上がった。
「同じ屋根の下に住み始めてからという意味でしたら六年になりますわ」
「あなたがたはとても親しかったのですね?」
「ええ、そうですわ。ホームズさん」
どうやら我が友人は、会話がどんどん危険なほうに流れていくことにまったく気づいていない様子だった。
「六年間も非常に親密な間柄でありながら、カークパトリック嬢の親類とは誰ひとり会ったことがないのですか?」
「ええ。母親についてはてっきり亡くなったものとばかり思っていましたし、父親のほうは二番めの妻と死に別れ、今は引退してサマセットに住んでいるお姉さんが面倒を見ているとのことでした。わたくしが知っていることといえば、せいぜいそれくらいしかありません。でも今となっては何を信じればいいのやら! そういえば結婚した弟もいるとのことでしたが、どこに住んでいるかまでは知りません。たぶん家族の人たちはわたくしのことを快く思わないでしょう。それどころかわたくしの存在さえ知らないかもしれないのです」
ホームズは組み合わせた手のあいだに顎を置き、興味深そうに眉を上げた。
「ほう、それはいったいなぜですか?」
わたしは天井に視線を上げて、ハドソン夫人の一週間ごとの点検をからくも逃げた蜘蛛の巣を数えながら、気を紛らしていた。
ミス・ダーシーが答えるまでしばらく
間があった。今のところ、彼女は実にうまく問題を処理しているようだった。
「そうですわね」と彼女は慎重な口調で語り始めた。
「たぶんわたくしの境遇、つまりわたくしの家の事情や、豊かでない生い立ちや育ちなどが、彼女の家族に当惑と非難を引き起こしているのだと思います。カークパトリック一族はサセックスきっての名家で、その社会的地位から人々の尊厳を集めているのですから」
なんとみごとな答えだろう! わたしは思わず賞賛の叫びをあげそうになった。このご婦人はその女性らしい直感から、ホームズの社会主義者的な側面をまんまとついてみせたのだ。わが友人は持ち前のボヘミアン魂から、上流社会というものを心底毛嫌いしていたのだから。
「これは大変失礼なことを申しあげました。ミス・ダーシー」とホームズはいった。「あなたのお気持ちをいささかでも傷つけるつもりはなかったのです。もちろん、あなたに嫌な思いをさせるそういった
無知蒙昧な
輩を許したりはなさらないでしょうね?」
「当然ですわ、ホームズさん。ああいったお上品な人々の態度にはまったく我慢がなりません」
心中してやったりとほくそ笑んでいたわたしは、ふと顔を上げた拍子に、ミス・ダーシーの目に浮かんだ苦悩の影を見ていささか戸惑いをおぼえた。その頬骨の上にはかすかな赤みが残っている。わたしは自分自身のことを彼女に説明して安心させてやりたかったが、いくらなんでも今ここでというわけにはいかなかった。
「あなたのご友人は、母親からの手紙が届くたびにそれを処分していたとのことですが、実際にその場をご覧になったのですか?」
「いいえ。たぶんわたくしの目の前でそんなことをして、いたずらに好奇心を呼び起こすようなことはしたくなかったでしょう。でも暖炉にはいつも燃やしたあとの灰が残っていましたし、ときおり封筒の一部が燃えずに残っていることさえありました。でも中身の手紙はいつも完璧に破棄されていました」
「すると封筒についてはそれほど気にもとめていなかったのに、手紙については完全に痕跡を残さないようにしていたというのですね」
「その通りですわ」
ホームズはしばらく思案していたが、やがてふたたび口を開いた。「お宅には使用人が何人いらっしゃるのですか?」
「下男が二人、それに料理人とメイドがおります。みな家に来てから長い者ばかりで、絶対に信用のおける人たちばかりです。残念ながら下男の一人のジョンは、病気がちの母親のそばで暮らすために故郷に職を見つけて、近々出ていくことになっています。わたしたちもとても残念に思っておりますわ」
「たとえばカークパトリック嬢が、あなたに知られることなく、彼らのうちの誰かに秘密を打ち明けていたとは考えられませんか? 当然ながらこれらの手紙に彼女は返信を書いていたはずです」
ミス・ダーシーはホームズの
示唆に興味を引かれたようだったが、しばらくじっと考えこんだまま何もいわなかった。しばらくしてからようやく彼女は口を開いた。
「わたくしにはわかりませんわ。でももしそうだとしたら、まったくマリアらしからぬふるまいです……使用人たちにはすでに、どんなことでもいいから手掛かりになるようなことを知っていたら教えてほしいといってありますが、彼らもわたくしと同じようにまったく見当がつかないようでした。彼女が手紙を持って出ていくところはメイドに目撃されています。わたくしとしては、彼らの言葉を信じるよりほかはありません」
「ふうむ」ホームズはしばらく両方の指を打ちつけたあとに、ようやく彼女の言葉に納得したようだった。彼はただちに別の手掛かりを追いかけはじめた。
「カークパトリック嬢は普通の手紙まで焼いたりはしなかったと思うのですが、そういった文書類がどこにしまってあるかご存じですか?」
「あの人の部屋の机のなかですわ」
「机には鍵がかかっているのですか?」
「ええ、でも鍵のありかは知っています。わたくしは彼女が置いていった鍵を使って、机のなかをすでに調べてみました。でも何も重要なものは見つかりませんでした。つまり彼女の失踪の手掛かりになるようなものはという意味ですが」
ホームズはいぶかしげに目を細めた。
「いったい何が入っていたのですか、ミス・ダーシー?」
依頼人は肩をすくめてみせた。
「何年も前にわたくしから彼女にあてた手紙ですわ。それに写真が何枚か……たぶん彼女の弟さんのものだと思います。彼女が弟さんの写真を持っているなんて知りませんでした。あとは公式の書類や、金銭的な取引きの記録といったもので……実は本当のことを申しあげますと、わたくしもそれほど真剣に見たわけではありませんの」
ホームズはしばらく黙っていたが、やおら立ち上がるとパイプに手を伸ばした。
「失礼ですが、煙草を吸ってもよろしいですか?」といいながら彼はすでに火をつけていた。
「どうぞ、おかまいなく」と彼女はいった(ともかくも、あの臭いクレーパイプではなく、ブライアーだったのは幸いである)。
ホームズは椅子に深々と沈みこみ、不快な臭いのする煙りを何度か吐き出してから、さりげない口調でたずねた。「先ほどのカークパトリック嬢の弟さんの写真の件ですが、あなたはとても驚かれた様子でしたね?」
「正直申しあげまして、とても驚きました。マリアと知り合って以来、わたくしと同じように彼女の口から家族のことを聞くことはほとんどなかったものですから。マリアと弟さんはこれまでにクリスマスの挨拶さえ交わしたこともなかったのです」
ホームズの口から吐き出される煙の量がますますおびただしさを増した。しばらくしてからホームズは唇からパイプを外してこういった。「あなたはこれまでその弟さんには会ったことがないとおっしゃいましたね。それなのになぜその写真を見て、すぐに弟さんだとわかったのでしょう? これまでにカークパトリック嬢から写真を見せてもらったことがあったからですか?」
ミス・ダーシーの目が驚いたように見開かれた。
「まあ、いいえ、そんなことはありませんわ。でもなぜか見たとたんにそんな気がしたのです。彼女にそっくりでした……特に目のあたりや顔が。彼のほうが髪の色が薄く、もちろん髪形も違っていましたが。写真にうつった人物はたいそう若く見えました。まだ二十代といったところでしょうか。たぶん二人のあいだにまだわだかまりのなかったずっと昔のものに違いありません。おそらく今頃は四十代になっているはずです。でも何といいますか、わたくしの想像していたよりも、ずいぶん感じが違っていたことはたしかです」
「なるほど。それで写真はすべて同じ頃に撮られたものでしたか?」
「いいえ、なかの二、三枚はもっと年若い少年時代のものでしたわ」
「ほほう、それは驚いた」
「なぜですの? ホームズさん」
「あなたはそう思いませんか?」
「そうですわね……少年時代の写真があるのなら、なぜ子供時代のものがないのでしょうか」
ホームズは伏せたまぶたごしに冷やかな視線を投げた。
「まだ真剣に考えていらっしゃらないようですね。失礼ですがお年をたずねてもよろしいですか?」
「わたくしは二十九歳ですわ」
「なるほど。カークパトリック嬢はたしかあなたより年上だったはずですね? 四十代前半と考えてよろしいですか?」
「おっしゃるとおりですわ。でもそれがいったい何の関係が……」
「いいや、どうか気になさらないでください。さて、これからあなたはぼくのいう指示にしたがってください。まず家にもう一度帰って、その机のなかを調べ直してみてください。たぶん何か大事なものを見落としているはずですから。あなたがちゃんと調べなかった文書類のなかに、ある秘密をあらわにする重大な書類が入っているはずです。もしそこになければ机のどこかに隠されているに違いありません。おそらく隠し引き出しのようなものがあるはずです。ここにいるワトソン博士をお供につけましょう。彼ならばぼくの捜査方法に
知悉していますし、きっとあなたのお役に役つことと思います。探しているものが見つかったら、ただちにここへ戻ってきてください。もしぼくが不在だったら、そのまま帰りを待っていてください。ぼくはこれから少し別の方面から調査をしてみることにしましょう」
彼はそういうなり立ち上がり、自室に戻ろうとするかのようなそぶりを見せた。ミス・ダーシーもつられて立ち上がった。
「待ってくれ、ホームズ」わたしは慌てて彼を追いかけていった。「ちょっと少しばかり話したいことがあるんだが。ミス・ダーシー、よろしければここで待っていていただけませんか? お時間はとらせません」
わたしはホームズのあとについて彼の部屋に入った。室内ははなはだしく乱雑をきわめていた。サイドテーブルの上には、モロッコ革のケースと空になった注射器が放り出されている。それを見たわたしは非難をこめた視線を彼に送ったが、ホームズは何も答えずにくすくす笑いを始めた。彼はベッドの端に座ると、手をもみ合わせながら面白そうにわたしの顔を見た。
「どうしたんだい、ワトソン君? たしかに見てのとおりこの数日間というもの、ぼくが
自堕落にふけっていたことは認めるよ。だがこの事件のおかげでようやく抜け出せるめどもたったんだし、今から非難したって手遅れというものだよ。さあ、いったい何が問題なのかね?」
「いや、その」わたしはいささかまごつきながらいった。「もう少し情報を教えてもらえまいかと思ってね。君はわたしに何か文書を探させようとしているのだろう? せめてそれがどんなものかだけでも教えてくれないかい?」
「親愛なるワトソン君」と彼はいった。「残念ながらそれはできないね。もし君がそれを推理できないというのなら、教えても無駄というものだ」
「いい加減にしてくれよ、ホームズ。失踪した女性が弟の写真を持っていたというだけのことで、いったい何がわかるというんだ。第一、君はいつも先走りすぎるよ。人が役に立ちたいと思っているのに、君ときたらいつだって雲をつかむような追跡ばかり人に押しつけるんだからな。わたしが五里霧中をさ迷っているあいだに、君はいつもとっくにわたしを出し抜いているんだ」
「いいや決してそんなことはないよ」とホームズはなだめるような口調でいった。「絶対にそんなことはない」
わたしはわざとらしく深いため息をついてみせたが、彼は聞こえないふりをした。
「それにぼくが君を出し抜いているという件だがね」
彼はもっともらしい口調で続けた。
「魅力的なご婦人といっしょに、たかが女性の書き物机の簡単な捜索に行ってもらうだけのことじゃないか。君の観察能力はぼくに劣らないくらい優れている。ぼくはただ君にある重大な文書を持ってきてほしいだけなんだ。ぼくの推理によれば、それは絶対に机のなかに隠されている。君だって見ればすぐにわかるさ。だから今さらぼくが何をいう必要があるだろう? だがひとつだけいっておこう。あの電報の内容は何といっていた?」
「COME AT ONCE NEED HELP MOTHER」とわたしは繰り返した。
「そうだね。わかっただろう」とホームズが勝ち誇ったように言った。
わたしは相変わらず五里霧中だったが、ホームズにはわかっているらしかった。わたしにはこれ以上からかいの種になることで彼を喜ばせる気はなかったので、いかにも立腹したように鼻を鳴らして、ドアに向かいかけた。
「ああ、わかったとも。ホームズ」わたしは精一杯の威厳を取りつくろいながらいった。
「じゃあまたあとで会おう」
「もちろんだとも、親愛なるワトソン君」と彼はいうなり、つかつかと近づいてきて、驚いたことにわたしの腕をつかんだ。「さあ、行きたまえ。依頼人が首を長くして待っているよ。もちろん彼女のほうだってぼくと行くよりはるかに面白いに決まっている。何といってもご婦人は君の専門だからね」
真っ赤に染まった頬を何としても見られたくなかったわたしは、あえて一度も後ろをふりむかずに部屋を出て、背後でドアを閉めた。
「さあ、行きましょう」わたしは必要以上にそっけない口調で、暖炉のそばでいらいらと足を踏みならしている依頼人に呼びかけた。
--続きは本編で--